鬼畜王じゃないランス・22




=LP03年06月3週目(火)=


メルフェイスに夜這いされた……いやデンジャラス・ホール30層の攻略を終えた翌日の朝。

先に目を覚ましたと思ったらしく俺の寝顔を見ようと身を乗り出してたメルフェイスだったが。

ワザとタイミング良く瞳を開く事で大慌てして謝る彼女を見て楽しませて頂いた後。

全裸だったので互いに隠しもせず着衣を開始する中、自然な流れで以下の様な会話を始めていた。


「そう言えばメルフェイス」

「は、はい?」

「昨日しつこかったっぽいサイゼルだが、本当のトコロどうなんだ?」

「どう……とは?」

「レズった件から今に掛けて懐かれっぷりがハンパじゃ無いだろ? 旅の負担に成ってないのかと思ってさ」

「…………」

「お前の事だから嫌っては無いと思うが、困りつつ有るなら出来るだけ俺が相手をしとくが? 扱い易い奴だし」

「御気遣い有難う御座います。ですが問題は有りません」

「ホントか?」

「確かに困ってしまったり対応に悩む事は多々有りますが……彼女との触れ合いは何と言うか……新鮮ですから」

「新鮮だと?」

「はい。私は"リヴ"の影響で今迄 人を避けてばかりの日々でしたから……あれ程 近付いて来る人は逆に異例で……」

「あァ。あまりにも極端なパターン過ぎて、むしろ清々しいと?」

「そうですね……とは言え信じられないかもしれませんが、私も小さい頃は まだ明るかった方だと思いますけど」

「生憎 想像がつかないなァ」

「クスッ。そう正直な所はランス様の良い所の一つだと思います」

「そ、そうか? なら野暮な事を聞いてしまうが……やっぱ副作用の当初は色々と"探した"んだよな?」

「えぇ。当初は私の"全て"を受け入れてくれる男性を探そうとした時も有りました……ですが例え親しくなろうと結局は離れ……」


――――淡々と着衣を終えた辺りで口ごもるメルフェイス。恐らく辛い思い出が多々有ったのだろうが今や隠し事は無しだ。


「あ〜ッ。それも何となく理解できた。人間じゃなくて魔人だがサイゼルは"その体"に成ってからエロい事をした上に事情を知った後でも初めて"積極的"に接触して来たヤツだったから、良い意味で困ってるダケに過ぎないって捉えて良いんだな?(俺の事に関してはカラダの事を理解はしたが立場上アイツみたいにベタベタとは出来ないから除外しているが)」

「……そッ……そうです。行ってしまった事は覚えていたので、相手が相手ですし嫌われる以前に最悪 殺されてしまう事も覚悟していたのですが……直後は気まずく成ったダケで特に何も無いドコロか私を抱えて飛んでくれ……ランス様に代わりに説明して頂いた後も距離を取ったりはせず何故か逆に縮まり……傍から見ると仰る通りに見えたのでしょうが、時には私の副作用を心配してくれる様な事も有り……今や私から突き放す気は有りませんね」

「詳しい説明を有難う。まァ野暮な心配だった様で何よりだ。それよか軽い気持ちで嗾けるような事をして悪かった」

「それだけ私とサイゼルの事を理解されていたと考えていますので、気に病まれる必要は有りません」

「助かるよ。では引き続き相手をしてやってくれ。傍から見ると遣り取りは姉妹みたいで面白いしな」

「ふふふっ。その本当の妹さんの事を語りだすと止まらなくなってしまうのが玉に瑕ですけど」

「タマニキズ? 極端な話 不満はソレだけって意味ならホント随分と気に入ってるな。俺は沢山有るのに(……けしからん衣装とか)」

「えっ?」

「んっ?」

「それではランス様は……サイゼルが苦手なのですか?」

「!? 何故そうなる。デキの悪い妹と捉えれば不満なんて幾らでも出て来るモンさ。そもそも"仲間"だし嫌ったりはして無いぞ?」

「…………」(しょぼん)

「そ、其処で何でメルフェイスが残念がるんだよッ? 俺 何か変な事でも言っちまってたか?」

「いぃえ……そう言う訳では無いのですが……」


――――皆と合流するべく既に宿の廊下を2人で歩いている中、彼女の意外な反応も有り互いに足を止めてしまったのだが。


「無いのですが?」

「えっと……あッ……」

「????」

「私からは申せませんね」

「な、何ィ〜っ?」

「それよりも急ぎましょう? ランス様!」

「ちょっ!? 引っ張るなって!(何気に強い力だッ)」

「……(サイゼルはランス様が居ない時は貴方の事も沢山 話すんです。ですから彼女はきっと"仲間"としてでは無く……)」

「分かった! 歩くッ! 歩けるから!!」


天然だろうが何かを思い出した素振りの後、メルフェイスは強制的に話を終わらせると俺の手を引いて歩き出す。

何と言うかこういうタイプの性格のキャラに今の様な翻弄を受けると負けた様な気がするのは置いておいて。

間接的にとは言え今の"申せません"で"山本 五十六"が妊娠した後のハーレムでのランスとの会話を思い出した。

つまりメルフェイスが俺に対するサイゼルの想いで何を知っているのかと言うと……鈍感でも無いし少し考えれば分かる事だった。

だが原作のランスとサテラの関係を思い出すと地味に切ないしで、無意識に深く考えない様にしていたんだろう。

彼女は そもそも魔人だし"強化"の必要性がほぼ無いので抱くと言う発想すらしなかったが、改めて考えると普通に美しい。

反面 性格に問題が有ったので色気を悪い意味でカバーしてたけど、容姿は大人だがガキっぽいってのは普通に守備範囲だ。

しかしながら。

だからと言って性欲を感じてしまえば今後キリが無いので、どうしても必然な場合以外は蟠りナシ前提でスルーする方針だ。

それは勿論サイゼルとて例外ではなく、正直 今の彼女との距離関係は気に入っているので相手してるメルフェイスには感謝せねば。

特に意味も無く振った話題だったんだけど、目を逸らしていた現実に気付かせてくれた事にも重ねてな。


「……ッ……」

「お〜い。いい加減 放さないのか? この手」

「い、今は私が握ってたいダケですからッ」

「ははッ。仕方無いな……下に降りる迄だぞ?」




……




…………




……やや長い木造の廊下を歩く事 十数秒後。

階段に差し掛かると自然と視界に入って来るのは食堂だった。

吹き抜けに成っている事から大体を見渡せる事ができ、半分ほど降りた辺りで仲間達を発見する事が出来る。

今の時点で自然と(恥ずかしいのか)メルフェイスが手を放していたのは捕捉として。

まだ寝ているのかサイゼルの姿だけ確認できないが、他の8名は確認でき"6名"はテーブルの前に座っていた。


「ら、ランス王ッ」

「お早う御座いますッ!」

「おはよ〜ございます!」


≪――――ガタッ≫


「お早う。昨日はお疲れさん」


そのうち最初に謙信が俺に気付いた……と言うか最初から階段の方を見ていたらしく。

彼女が慌てた様子で立ち上がると並んで座っていた2人の連れも続いて起立した。

対して過剰な畏まりとは感じれど咎めるのも どうかと思うので、それを流しつつ朝の挨拶を交わす。

一方 視線を右に移すと手前から述べて、思いの他ハマったのかサイゼルの漫画を読んでいたミル。

恐らく南条あたりと雑談してたっぽいエレノア。

先日買った雑誌を読んでいたアームズと続きJAPAN組との温度差が激しかった。


「ランスッ! おはよ!!」

「ちゃんと早起きしてたみたいだな。感心だ」

「お早うランス君……良く眠れた?」

「ま、まァ問題ないぞ」

「早速出発するのか?」

「軽く摘まんだらな。それよりもだ」


俺はミルら3人とも言葉を交わすと軽く手を振りつつ、宿の入り口の方へと歩みを進めた。

其方には残りの2人・かなみとウィチタが居たからであり、互いに背を向けて何者かと向かい合っている。

当然 気にならない筈は無いので近寄ってみると、其処にはウィチタの相方でも有る"カクさん"が居た。

以前も述べたが鬼畜王ベースらしく相変わらずニコニコとしており、直ぐ俺に気付くとペコりと頭を下げる。

……とは言え凄まじい距離を経て此処に訪れたのは間違いないだろうに、一見 普段通りにしか見えない。


「ランス王〜、おはようございます〜」

「あァお早う。流石に疲れたんじゃないのか?」

「(恐らく徹夜でしょうね)」

「(流石に私の目は誤魔化せないわよ? カオル)」

「いぃえ〜御気遣い有難う御座います。それよりもマリス様より手紙を預かっておりまして〜」

「ふむ……余程の内容みたいだな。すまない直ぐに確認しよう」

「どうぞ〜」

「ウィチタ。彼女に何か冷たいモノを拵えてやってくれ」

「か、畏まりましたッ」

「あらら……(煩わせないつもりが先手を打たれてしまいましたか〜)」


手紙をカオルから受け取った俺は入り口から少し離れると、その場で躊躇せず開封した。

すると其処には凄まじく綺麗なマリスの字で、早い話リーザスに戻った方が良いと"遠回し"に書かれている。

当然マトモに引き返すと一週間は掛かる事から相応の予定を立ててスタンバってくれてるみたいだが……

それなりに記されている内容は多いので、全て読み切ってから詳しく考えようとするんだけど。

ミルをはじめ皆が空気を読んで俺の邪魔をしようとせず、背後のかなみも気になっている様だが覗き込んで来ない。

だが俺が手紙から視線を逸らすと、やはり子供かソレを見計らったミルが率直な事を言う。


「ねぇねぇ。何て書いてあったの〜?」

「……直ぐリーザスに戻って来て欲しいらしいな」

『!?!?』

「で、では……リア様がやはり……?」

「怒っている様では有るが少し違うな」

「差し支えなければ理由を教えて貰っても良いですか?」(皆の前だと敬語を使っている かなみ)


メルフェイスは"リアがキれているので戻ってください"とマリスが促したと予想したみたいだが。

それは無く"帰ったら抱いてやるから大人しく待ってろ"と言うコトバを信じて"一応"は大人しく待っているらしい。

だが何人もの親衛隊とかの生娘を用意したりと準備を勝手に始めているらしく、返事には"止めさせろ"と足して置くか。

ならば帰還を促す別の理由は何なのかと言うと、正直 驚きを通り越してしまっており案外 俺は冷静だった。

よって特に表情を変えず全員の疑問(特に驚きの様子からJAPAN組)を代弁してくれた かなみに答える。


「来週のアタマにAL教団 新法王とやらがリーザスを訪れるらしい」

『……!!』

「対してリーザスは返事を待たれている状況らしいが、王が居なくて判断しかねるので早急に返事が欲しいとさ」

「ず、随分と大きな理由なんだね……」

「あァ。詳しい用事の内容は全く分かって無いらしい。寄付金をせびるのに法王は来ない以前に、許可させてるしな」


――――俺と同じ気持ちなのか目を丸くして静かに驚いていると言った感じのエレノアに続いてメルフェイスも口を開いた。


「リア様は……どう対応されたのですか?」

「(原作のレイラさんの事も有るし)重要度が高い あらゆる外交は全部俺に回す様に言っている。マリスには内容次第じゃ任せてるが」

「それじゃ〜どっちが王女様か分かったモンじゃ無いね〜ッ」

「わりと気にしてそうだから言ってやるなよミル。ともかく今から大急ぎで戻って何とか間に合うかってトコか?」

「だ、だとすればデンジャラル・ホールの攻略はッ」

「うぅ。昨日は貸しを作ったばかりなのに〜」

「仕方無いわよ2人とも……状況が状況なんだから」


此処で ようやく軌道に乗ってきたのを実感している謙信達3人が苦虫を噛んだ表情を浮かべている。

宥める南条も悔しそうなので、部隊と援助は既に託されど俺達の攻略の役に立ったと言う自覚は無いのだろう。

謙虚な事は結構だが、俺にとっては彼女達を迎え入れる事が出来た時点で大きな収穫なので気に病む必要は無いのだ。


「……う〜む……」

『…………』

「あの……ランス王。許可を頂ければ私が早急に帰還の手配を致しますが……」

「いや待てウィチタ。その必要は無い」

「えっ?」

「リーザスには"まだ"戻らん。週の末までは普通に攻略しよう」

「良いのか? こんな所で油を売っている場合では無いのは幾ら私にでも分かるぞ」

「ちゃんと"考え"が有るから大丈夫だ。と言うか露骨に残念そうな顔で見つめて来てたろアームズ」

「さてな?」

「それ以前にマリスの手紙には"直ぐ戻れ"と言う様には書いていなかった。アイツの性格から考えて法王が来るからって、魔人の対策と言う目的を持って動いているリーザスの王を蜻蛉帰りさせる様な選択肢はハナから無い。AL教団に多少 反感を買われる程度なら"リアが居るリーザス"の威厳とプライドの方が余程 大切だろう。即ち僅かな遠回しで俺……様が解釈したに過ぎないのさ。滞りなく謁見を済ませるには俺様が私用を保留してサッサと戻る事が一番 妥当な判断だからな」

「(私にとっては法王様の件よりランス君がそう言う解釈が出来る事の方が驚きだよ……)」

「では今は切り替えるに限りますね」

「そう言うことだ かなみ。じゃあ部屋で返事を書いて来るから皆は先に飯を食っててくれ」

「やった!」

「其処は抑えましょうよ〜謙信様〜。どっちの意味で喜んだかは分からないけど〜」

「素直なのは結構だけど少しはランス王を見習いなさい(策は有る様だし詮索は無粋ね)」

「では食事を終えたら各自 準備を済ませ正午に宿の入り口に集合だ。その際メルフェイスはサイゼルが まだ寝てたら起こしてくれ」

「……分かりました……」

「少々今日の集合時間は遅く有りませんか?」

「ん。手紙を書く時間が欲しいのと、リーザスに蜻蛉帰りする娘が居るだろ?」

「あッ……」

「心遣い重ねて感謝致します〜」

「何ならオマエが届けに戻るか? かなみ」

「だ、駄目ッ! この位置は譲れないわ!」


現実的に考えれば今週一杯ダンジョンに潜ってしまうと、来週アタマにリーザスに戻ってからの法王との謁見は無理だ。

よって本来ならばマリスの気遣いあれど大至急 戻るべきであり、クルックーとか言う奴を知らないなら尚更である。

それなのに何故 継続を決めたのかと言うと当然"考え"が有り、経験値は稼ぐがリーザスにも速やかに戻ると言う一挙両得。

"ある者"が居なければ出来なかった奇策と言え、こう言う時に利点を活かして貰う為に日々努めていたと捉えて貰って良い。

生憎 断られれば終了なのだがメルフェイスとの会話で考察した様に上手く説得すれば問題なく、誰かも直ぐに分かるだろう。




……




…………




……約2時間後。

書き物を終えた俺は少し休憩を挟んでから、食堂で茶を飲みつつ寛いでいたカオルに手紙を渡した。

そしてペコリと丁寧な お辞儀をしてから去ってゆく彼女の背中をウィチタと共に見送ると、その場で深い溜息をついてしまう。

だが歩き去るカオルが見えなくなった辺りで気持ちを切り替えると、俺を心配して見てたウィチタを下がらせて視線を移す。

すると その先には先程 皆が座っていたテーブルの前で一人、足を組んで麺料理(っぽいの)を啜っている魔人が居た。

只でさえ彼女の姿でガツガツと食事をしているのはシュールなのだが、麺をフーフーしている様子も何とも言えない光景である。

そんな残念な美人で魔人なサイゼルとは言え今後の(大袈裟だが)命運を握る者なのは間違い無く、俺は彼女に近付いて声を掛けた。


「サイゼル。ちょっと良いか?」

「ズルズルズル……ッ……ゴクン。うん? どうかしたの? ランス」

「イキナリだがオマエって前にメルフェイスを抱えて飛んで来た事あったよな?」

「うん。あんま思い出したく無いけど……それが ど〜かしたの?」

「正直なトコ、俺みたいな奴でも持てるのか?」

「……アンタの事だから理由もなしに聞く話じゃ無いわよね? 何か理由でもあんの?」

「無駄に勘が良いな。じゃあ順を追って説明するが……」

「あッ。ちょっと待って。コレは温かいウチに食べちゃいたいから。後なくなったし水 持って来てくんない?」

「お前 氷の魔人だろうが……猫舌なのかよ?」

「う、五月蝿いわねッ。それと出発 遅れるなら言ってよ! さっき起きたら誰も居なくて焦ったじゃないッ」


――――しっかし今から無理な相手に無茶な注文をする筈なのに、楽勝だと思ってしまうのは気の所為だろうか?




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